
「リゴレット」より演奏会用パラフレーズ Rigoletto - Paraphrase de Concert(Verdi) S.434
ヴェルディ=リスト 1859年
[雑感]
パラフレーズの諸作品がリストの作品の中で特別に目立っているようには思いませんが、パラフレーズの代名詞的な作品と言えば間違いなくリゴレットパラフレーズです。略称「リゴパラ」。パハマン、コルトー、ゴドフスキ、ペトリなど数々の巨匠に愛奏され、その録音数の多さたるや、他のパラフレーズ諸作品とは比較になりません。また、専門でピアノを学んでいる人にとっての学習素材としても非常によく使われます。個人的にも練習曲としての価値が大いにありました。
改めて曲の構造を紐解いてみると、たった二つのテーマでよくこれだけのバリエーションに仕上がるものだなと驚いてしまいます。さすがに円熟期の作品だけあって、オペラ上での対話を模している冒頭部分にも無駄がありません。この曲のウリはオペラ第三幕の4重唱部分に対応する箇所、すなわち2回目のカデンツ風6度和音下降のあとにゆったりと流れるドルチェの主題ですが、つなぎのアレンジが輝いているので原曲ほどに主題が目立たないのが率直な感想です。ちなみに原曲の4重唱は、あまりまとまりの感じられない和声感で、リストによるラインの引き抜きが丁度いいように感じられます。
私の注目しているポイントは、このドルチェ部分、厳密に記譜の右手アクセント・スラー・メゾスタッカートと左手メゾスタッカート。これを実践している奏者が少ないのが残念です(右図・schott版譜例)。特に一拍目のアクセントはのびやかで美しい膨らみを担保しており、原曲にはないリストならではの奥ゆかしい表現を象徴するきわめて重要なアクセントだと考えています。アクセント守っているのはヴァーシャリ(やんわり)、ポンティ(適度に)と中村紘子(オーバー気味)など。スタッカートを守っているのはユンディとティボーデ。総合的にイメージが一番近いのは佐藤美香です。
また、リストの要求するオクターブはボリュームの条件が過酷です。特に、先述の主題を6連符で繰り返部分のオクターブですが、一回目はピアノ、2回目はピアニッシモです(これを再現しているピアニストも少ない)。6連符=6回オクターブを連打するという感覚ではテンポが殺されてしまうので、2連打+4連打の2つのまとまりにして瞬発力を駆使するか、もしくは6連打の全てを高速にするのではなく、ゆっくりからだんだん速く(後半3連打を急ぐ)というような緩急をつけるのが得策でしょう。慣れれば6連符を全て瞬発(振動させるように)で処理することができると思いますが、たとえ連打は低速でも、フレーズ単位のルバート、あるいはアーティキュレーションでカバーする方法を考えるほうが賢いかもしれません。
リズミカルなフレーズの総体的な流れ、展開を見通したテンポコントロールに集中しないと、大河を失い、ひどく不恰好になるのがこの曲の全体的な特徴です。単発的な発想で俊敏に音列を処理していくことに集中しすぎると、十分な音楽性を得られません。少なくとも、歌が無音部分にかき乱されないよう、特に高音部での歌い方に十分な配慮をすると、流れが統一されるようです。
[推薦盤]
・トーザー(CHANDOS CHAN 9471)
・フェドトヴァ(Con Cla Rec 26366)
歌心が求められる優雅なベルカントを奏でるには多彩な音色を出せるアーティストが優位に立ちます。トーザーとフェドトヴァは絶妙な「裏声」を持っており、その切り替え方も美しく、お勧めです。また、チェルカスキーが悪い見本なのですが、やはり先述の6連符部分がおぼつかないと全体のバランスを失い、悪印象となります。ピアノ&ピアニッシモという条件をクリアした上で当パッセージが最も鮮やかなのはユンディ・リ(DG UCCG-1140)ですが、一回目のカデンツ風6度下降の左手がスッポリと音抜けしています。次点はカツァリス(TELDEC WPCW-4127/8)。オクターブがミサイルのように飛んでくるのがティボーデの2回目の録音(LONDON POCL-1359)。国内アーティストだと、三船優子(Fun FHCE-2023)のタッチとペダリングが非常に冴えています。
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