début - Nobuyuki Tsujii 
【邦訳タイトル】デビュー
【演奏者・録音】辻井伸行 2007年
【カタログ番号】avex AVCL-25178(輸入盤)
DISC1 ――――――――――――――――――――――――――
1. 子守唄(ショパン)
2. スケルツォ2番(ショパン)
3. ポロネーズ6番「英雄ポロネーズ」(ショパン)
4. 愛の夢3番(リスト)
5. メフィスト・ワルツ1番(リスト)
6. ハンガリー狂詩曲2番(リスト)
7. 亡き王女のためのパヴァーヌ(ラヴェル)
8. 水の戯れ(ラヴェル)
DISC2 ――――――――――――――――――――――――――
1.ロックフェラーの天使の羽(辻井)
2. 川のささやき(辻井)
3. 花水木の咲く頃(辻井)
4. セーヌ川のロンド(辻井)
5. 高尾山の風(辻井)

2009年クライバーンコンクール優勝という快挙を飾った盲目のピアニスト。現在、国外のピアノコンクールの中で圧倒的な影響力を持っているのはショパンコンクールのみですが、さすがに今回の優勝に関する国内メディアでの取り扱いは大変なものでした。ピアノ演奏にはそもそも視覚が必要ないのか、あるいは盲目ゆえに感覚が研ぎ澄まされるのか。恐らく後者だと思われますが、いずれにしてもハンデを追いながら一芸を極めるというのは畏敬すべきことです。
さて、これは少し前に出たデビューアルバムです。まず驚かされるのはミスタッチの少なさでしょうか。そしてムラのない跳躍、美しい粒立ち、湧き上がるレガート。音色一つ一つに緊張を持たせて彩度を上げる梯剛之氏の奏法とは好対称で、ストレートな響きと流れが明快です。1枚目の収録曲はピアノファンに馴染みの曲ばかりですが、各作品とも「昨日作曲されたような」新鮮な仕上がりです。スケルツォ2番では工夫された間合いと声部の強調が見られ、メフィストワルツはまるでルーペをかざしたように音型が細部で刻々と変化する様子を見て取れます。水の戯れは几帳面とテンポの中にポツンと残されたようなリズムの疼きが感じられます。総じて横の流れに傑出しています。クライバーン・コンクール優勝特権である契約ツアーなどを経て、もう一回りの成長をすることでしょう。
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