Liszt vs Thalberg -Steven Mayer
An histrical re-enacment of their musical "Duel" of 1837. 
【邦訳タイトル】リスト対タールベルク(1837年・世紀の音楽的決闘)
【演奏者・録音】スティーヴン・メイヤー 1991年
【カタログ番号】ASV CRCB-137(ASV国内盤)
1.「ニオベ」のカヴァティーナ「高鳴る胸を」によるディヴェルティスマンS.419(パッチーニ=リスト)
2.「モーゼ」の主題による幻想曲 Op.33(ロッシーニ=タールベルク)
3. コンツェルトシュトック Op.79(ウェーバー=リスト)
4. イギリス国歌による幻想曲 Op.27(タールベルク)
5. 詩的で宗教的な調べ3番 孤独の中の神の祝福(リスト)

リスト対タールベルク。通称「象牙の戦い」と呼ばれているピアノ史上の名決闘を再現したCDです。ジャケットに描かれているカリカチュアが印象的です。しかし、2人によって実際のサロンの場で弾かれたのはトラック1と2だけであり、さらには順番が逆になっています。また、他の曲は当時2人の活躍を印象付けた重要な作品ですが、孤独の中の神の祝福だけは当時まだ作曲されておらず、時代的に関係のない選曲です。このことについて、「リストは後にタールベルクにない境地を切り開いたのだ」という奏者のメッセージではないか?"というような推論がライナーノーツに書かれていますが、実際はわかりません。いずれにしても、単独奏者による演奏であれば、本質的にはパリ滞在期の二人を象徴的する"作品同士"の決闘といったところでしょうか。
奏者は基礎的な音の分離、音色の美しさ、非常に高度に洗練された技巧を持っています。「高鳴る胸を」によるディヴェルティスマンにおける、主題のオスティナートをかけながら、技巧的な実験と対位法的なアプローチを盛り込んで展開していくさまは、「ヘクサメロン」に通じる形式美があります。メイヤーは無理にテンポを押し上げず、適度な情感コントラストに配慮した表現に成功しています。冗漫と言われるタールベルクの各作品は、その理由として過剰なアルペジオや16部音符への寄りかかりに理由があるように思いますが、イギリス国家による幻想曲は後半部での経時的な技巧的集和と目まぐるしい転調を経て変イ長調へ帰る和声展開が大変に凝っており、リストの諸作品と同様に、演奏機会に恵まれないのが残念です。
|