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Stephen Hough



  THE PIANO ALBUM - Stephen Hough

【邦訳タイトル】ピアノ・アルバム
【演奏者・録音】スティーブン・ハフ 1986-1991年
【カタログ番号】Virgin 7243 5 61757 2 3(輸入盤)
 DISC1 ――――――――――――――――――――――――――
 1. 2つの幻想的小曲2番 魔女の舞踏 Op.17-2(マクダウェル)ハフ1986
 2. 6つのポーランドの歌1番 乙女の願い(ショパン=リスト)ハフ1986
 3. 深紅の花びらは眠り(クィルター=ハフ)ハフ1986
 4. フクシアの木 Op.25-2(クィルター=ハフ)ハフ1986 ※
 5. 奇想曲 Op.28-6(ドホナーニ)ハフ1986
 6. メヌエット ト短調 Op.14-1(パデレフスキ)ハフ1986
 7. ノクターン Op.16-4(パデレフスキ)ハフ1986
 8. 練習曲 Op.1/2(シュレーザー)ハフ1986
 9. ホ調のメロディ(ガブリロヴィッチ)ハフ1986
 10. おどけた奇想曲(ガブリロヴィッチ)ハフ1986
 11. 私のお気に入り(ロジャース)ハフ1986
 12. カシミールの歌(フィンデン)ハフ1986 ※
 13. オルゴール(フリードマン)ハフ1986
 14. 白鳥(サン・サーンス=ゴドフスキ)ハフ1986
 15. 蝶々(ローゼンタール)ハフ1986
 16. ジャワ組曲3巻 ポイテンゾルグの庭園(ゴドフスキ)ハフ1986
 17. ワルツ Op.42(レヴィツキ)ハフ1986
 18. 旅路で Op.9(パルムグレン)ハフ1986
 19. シチリアーナ Op.42-2(モシュコフスキ)ハフ1986
 20. スペイン奇想曲 Op.37(モシュコフスキ)ハフ1986
 DISC2 ――――――――――――――――――――――――――
 1. 華麗な変奏曲 Op.14(チェルニー)ハフ1991
 2. 魅せられた妖精(レヴィツキ)ハフ1991
 3. スペイン歌曲集 Op.74-10 密輸入者(シューマン=タウジッヒ)ハフ1991
 4. ヘ長のメロディー Op.3-1(ルビンシュテイン)ハフ1991
 5-8. ガーゴイル Op.29(リーバーマン)ハフ1991
 9. 音の玉手箱(レビコフ)ハフ1991
 10. 音の玉手箱(リャードフ)ハフ1991
 11. 形式的練習曲 Op.40-1 アジリテ(ラヴィーナ)ハフ1991
 12. 私が目覚めるまで(フィンデン=ハフ)ハフ1991
 13. もう泣かないで(クィルター=ハフ)ハフ1991
 14. シャムの子供たちのマーチ(ロジャース=ハフ)ハフ1991
 15. 可愛いワルツ(モシュコフスキ)ハフ1991
 16. セレナータ Op.15-1(モシュコフスキ)ハフ1991
 17. ブーレ(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ1番4楽章)※ (バッハ=サン・サーンス)ハフ1991
 18. トリアコンタメロン25番 思い出(ゴドフスキ)ハフ1991
 19. アダージェット(ビゼー=ゴドフスキ)ハフ1991
 20. ハンガリー風ジプシーの歌(タウジッヒ)ハフ1991

※ ライナーノーツ上の誤植訂正部分


 ピアノマニアにハフの名を知らしめた、現代版超絶的演奏美学の原点とも言うべきアルバム(2枚組廉価再販盤)です。見事なまでに無造作に並べられた知られざる名編曲のラインナップですが、各曲とも圧倒的な鍵盤支配力の前に説き伏せられています。この中のいくつかは「奏者ありきの名作」であることは改めて言う必要のない事実です。
 たとえばドホナーニの奇想曲、ハフの手にかかるとまるで光芒のような輝きを放ちます。難しい高速パッセージでもリズム感が殺されず、なおかつ常に均質な粒が維持できる能力が象徴的です。個人的な嗜好は魅せられた妖精おどけた奇想曲などですが、鮮やかなタッチと打鍵コントロールに関してはこれ以上のものを求める方が難しいと言っていいくらいでしょう。スペイン奇想曲は、疾走感著しい本家ホフマンの演奏よりも自由度が高く、アゴーギク、デュナーミク共によく練られています。まさに同じ超絶系ピアニストをも脱帽させる勢いを感じます。
 ただし、中には必要以上に額面上の動きに固執しているものがあります。主旋律のボリュームバランスに配慮が感じられないゴドフスキ編白鳥の演奏は特に残念です。ヒストリカルなピアニストがこだわってきた各演奏が存在する場合、それを塗り替えるだけの芸術点に関してはペンディングです。



  Années de pèlerinage - Suisse - Stephen Hough

【邦訳タイトル】巡礼の年~スイス
【演奏者・録音】スティーブン・ハフ 2003年
【カタログ番号】Hyperion CDA67424(輸入盤)
 1. 巡礼の年第1年1番 ウィリアム・テルの聖堂(リスト)
 2. 巡礼の年第1年2番 ヴァレンシュタットの湖畔で(リスト)
 3. 巡礼の年第1年3番 田園曲(リスト)
 4. 巡礼の年第1年4番 泉のほとりで(リスト)
 5. 巡礼の年第1年5番 嵐(リスト)
 6. 巡礼の年第1年6番 オーベルマンの谷(リスト)
 7. 巡礼の年第1年7番 牧歌(リスト)
 8. 巡礼の年第1年8番 郷愁(リスト)
 9. 巡礼の年第1年9番 ジュネーヴの鐘(リスト)
 10. 別れ~「ロミオとジュリエット」の主題による幻想曲 S.409(グノー=リスト)
 11. 「ファウスト」のワルツ S.407(グノー=リスト)
 12. 「シバの女王」より子守歌 S.408(グノー=リスト)


 巡礼の年で、各年毎にフォーカスした録音盤は第1年集と第2年集がほとんどという状況です。ただ、巡礼の第1年を選び、そこにグノーの編曲物をカップリングするというのは例がありません。
 ハイペリオンということで例のごとく大ホール的なサウンドですが、ハフと相性がよくありません。少し遅めのテンポをとったオーベルマンの谷のようなスケールの大きい作品では安定して低音部を盛り上げますが、インプロヴィゼーションのような田園曲などは躍動感なし。ヴァレンシュタットの湖畔で泉のほとりなども非常に美しく響くのですが、本人の技量とは関係なく潤沢な響きに丸め込まれていて、無駄に水増しされた質感です。持ち前の至芸を間近に感じることができるのはジュネーヴの鐘くらいです。短7度和声が印象的なロミオとジュリエットの主題による幻想曲、そして「シバの女王」より子守歌はもともとさしたる見せ場のない作品であることにあわせ、演奏も隠れた魅力を引き出すには至りません。ファウストワルツも渾身の演出からは程遠く、斜に構えたような印象があります。全体的に奏者の手に余るようで、気概と呼ぶべきものに欠ける一枚です。

 




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