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Fujiko Hemming



  La Campanella 1973 - Ingrid Fujiko Hemming

【邦訳タイトル】ラ・カンパネラ 1973
【演奏者・録音】フジ子・ヘミング 1973-2004年(連弾:大月礼子)
【カタログ番号】DECCA UCCD-1145(国内盤)
 1. パガニーニ大練習曲3番「ラ・カンパネラ」(リスト)フジ子1998
 2. ノクターン2番 Op.9-2(ショパン)フジ子1998
 3. ワルツ15番(ブラームス)フジ子、大月1998
 4. 練習曲 Op.10-3「別れの曲」(ショパン)フジ子1973
 5. 3つの演奏会用練習曲3番「ため息」(リスト)フジ子1973
 6. 超絶技巧練習曲5番「鬼火」(リスト)フジ子1983
 7. 練習曲 Op.10-12「革命」(ショパン)フジ子1973
 8. 「マ・メール・ロワ」よりバゴダの女王レドロネット(ラヴェル)フジ子、大月1998
 9. ハンガリー舞曲5番 (ブラームス)フジ子、大月1998
 10. 巡礼の年第1年4番 泉のほとりで(リスト)フジ子1998
 11. マズルカ49番(ショパン)フジ子2004
 12. パガニーニ大練習曲3番「ラ・カンパネラ」(リスト)フジ子1973


 NHKのドキュメンタリー「フジコ~あるピアニストの軌跡」は何度再放送されたことでしょうか。1999年が初回でしたが、10年近くたった2009年もまだ放送されているところを見ると、やはり並々ならぬ人気があるようです。各界の著名人や固定ファンの心をガッチリ掴み、この不況の中でもコンサートはほとんど満席という状況は未だに変わっていません。
 さて、今回は1973と銘打ってあることからも、これまで取り上げられなかった若きフジ子の録音に着目した一枚ですが、まさに爛熟前の技巧と熱烈な弾きぶりが伺えます。別れの曲で難部とされる重音下降、ため息のインペトゥオーソからプレストに至る音列処理、さらにはアジタートに弾き飛ばすような革命と、どれも攻めのテンポと逞しい生命力を感じさせます。タイムバックした73年のラ・カンパネラも本人の言うところの「壊れて」いるどころか、テクニカルなアピールさえ感じられます。それでいて、美観に優れた音色と誰にも真似できない独特の間合いは既に完成されています。83年の鬼火も精度の点で言えば問題は多いものの、曲想の浮遊感は秀逸で、さらに遡ること全盛期の演奏に思いを馳せずにはいられません。
 本人がミスタッチや老衰する技巧を自認し、現在のような奏法を誇示するのは、まさにかつて誇った技巧と早い時期から突出した個性に裏打ちされたものなのでしょう。まさしく今のフジ子にハシゴを渡すような興味深い一枚です。

 

 




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