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Samson François



  The Art of Samson François 7  Liszt : Hungarian Rhapsodies No.1 to 8

【邦訳タイトル】サンソン・フランソワの芸術7 リスト:ハンガリー狂詩曲集(1)
【演奏者&録音】サンソン・フランソワ 1953-1954年
【カタログ番号】EMI TOCE-8817(国内盤)
 1-8. ハンガリー狂詩曲1~8番(リスト) 


 30歳頃に録音されたリスト集です。フランソワと言えば気まぐれで即興的な解釈、奔放なルバートで知られています。そして、ルバートに依拠する作品と言えばハンガリー狂詩曲であり、これはベストマッチングと呼ぶより他ない組み合わせです。しかし、蓋を開けてみると思ったよりも遥かにほこりっぽい演奏が並んでいます。
 ショパンの録音、たとえばバラードやスケルツォで見られたような粘り狂う旋律や動的なポリフォニーなどといった主観的要素は薄く、リズムやテンポもルバートにかき乱されることなく整然としています。オクターブのフラッシュも控えめで、強引に低音部をかき鳴らすような厚かましさもほとんどありません。それこそシフラの野生的な演奏から考えれば、非常に大人しいものです。各曲ともフリスカではアクセントによって活力を得ないオクターブでパサつき、流れは技術的な困難によってしばしば淀みます。そしてそれがわざと厚ぼったく聞こえるように施しているのかと思わせるほど職人的で、特有のリアリティを感じさせるのです。7番は特にその傾向が強いでしょう。
 あたかも馬鹿正直にリストの技巧と格闘しているように装っているような、余裕という点でアンビバレントな演奏です 。



  The Art of Samson François 8  Liszt : Hungarian Rhapsodies No.9 to 15

【邦訳タイトル】サンソン・フランソワの芸術8 リスト:ハンガリー狂詩曲集(2)
【演奏者・録音】サンソン・フランソワ 1953-1954年
【カタログ番号】EMI TOCE-8818(国内盤)
 1-8. ハンガリー狂詩曲9~15番(リスト) 


 第1集と比較して明瞭なアクセントや内声の切り込みがあり、フランソワの解釈がわかりやすい形で集約されています。馬力いっぱいの荷物を引くような重々しいテンポと対照的に、跳躍のリスクを顧みず、無理を承知で加速するような思い切った場面も見受けられます。
 じっくりとしたラッサンで始まる9番は非常に見通しがよく、軽薄になりがちなコーダに至るまで堂々とした大きな流れで一貫しています。10番は中間部で転調して入るグリッサンドがきっちりはめられていています。オクターブが正確に入り、粒揃いも安定した11番、左手の低音オクターブがバリバリと連なる12番、緩いジャズテイストが陽気に盛り込まれた14番、しばしば千鳥足になるラコッツィ行進曲と、作品一つ一つに別々の魂を吹き込むような、コントラストのはっきりした演奏が続きます。第1集に引き続きミスタッチを量産している点、そしてスプライスが粗雑な点が残念ですが、愛嬌のある装飾音や思わぬ伴奏部の引き出し方など、隅々に渡って芸達者です。
 酔狂がいつのまにか陶酔に変わるような、意図的かつ非意図的な音楽をやってのけます。フランソワの前では「哀愁」や「享楽」と言った言葉が陳腐化されてしまうようです。これほどまでに生臭い至芸を見せつけるハンガリー狂詩曲集は、恐らく最初で最後ではないでしょうか。

 




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